海のしごと Work in a sea/白石紗苗 Sanae Shiraishi

海上にしかない仕事の魅力。

この業界にはまだまだ女性が少なく、「内航海運業を営んでいます」と言うと「どんな仕事をしているの?」とよく聞かれます。内航海運は、日本の港から港へ、国内の貨物を海上輸送する仕事。弊社は所有する2隻のタンカーで石油製品を運んでいます。私は主に陸上で、タンカーの運航管理や安全管理、配乗業務などを行っていますが、1カ月に2〜3回は乗船して、乗組員としても働いています。出港の時はいつも、冒険に出かけるような気分。海と空と太陽、どこまでも広がる大海原は本当に気持ちがよく、陸上とは違う時間が流れていて心が落ち着きます。通勤のストレスはないし、時間に追われないし、人間関係の煩わしさもない。陸上にない魅力を体感できる仕事です。

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娘が会社を継ぐという選択。

うちは祖父がタンカー1隻からはじめた会社で、私で三代目。船主船長の祖父と父の背中を見て育ち、船の仕事はかっこいいなって、子どものころから憧れていました。大好きな祖父が興したこの会社で、いつか自分も働きたいと。でも、私は二人姉妹の妹。昔は女の子が船乗りになる、ましてや海運会社を継ぐなんて誰も思わなかったので、特に継ぐ決意もなく、大学に進学しました。が、やっぱり私は家業が好きだった。跡取り息子がいない父はいずれ廃業することも考えていましたが、会社を継ぎたいという私の意思を受け止め、ここまで導いてくれました。

何事も、楽しむ術を見つければいい。

大学卒業後は2年間、小さな貿易会社で機械部品の輸出業務を担当し、さらに2年間徳島県の船員派遣会社で修行をさせていただいて、3年前に家業に就きました。実際にやってみると、それまでに経験した仕事とは業務がまったく異なり、戸惑うこともしばしば。特に船のトラブルに関しては解決の術がわからず、知識と経験のなさを痛感しました。トラブル回避のためのマニュアル整備はできるけれど、トラブルが起きたときには何もできない自分が悔しかった。その壁を乗り越えたくて、航海と機関の海技免状を取得し、乗船をはじめたんです。わからないなら、現場で触れてみようって。それからは船自体をおもしろいと思えるようになり、船員さんたちとも深く話せるようになりました。

機械だって生きて働くもの。

2年前に、忘れられない出来事がありました。所有するタンカーの1隻がたびたびエンジントラブルを起こしたんです。乗組員はとてもこまめに手入れをしてくれていたのですが、多額の修繕費がかかり、私にはお荷物としか思えなかった。そんなある日、そのタンカーがドックヤードから出て行く姿を見た私は、ハッとしました。当時この船は25歳、人間にしたら80歳のおばあちゃん。文句も言わず長年働き続けてくれたのに、ポンコツ扱いをした自分を深く反省しました。以来、船を労わる気持ちが自然に湧いてきて、訪船の際は必ずエンジン場に行って心の中で声をかけたり、少しでも長く現役でいられるよう修理や不具合を未然に対処するようにしました。すると、不思議と故障が減ったんです。偶然かもしれませんが、機械にも心が伝わるんじゃないかと思っています。

児童養護施設の子どもたちに船員の仕事を知ってもらいたい。

私の目標は、船員さんの無駄な手間をできるだけ省いて、楽しく前向きに仕事ができる環境を整えること。死ぬまでうちで働きたい、うちで働いて良かったと、思ってもらえたらうれしい。働いていただいてる、働かせていただいてる、船員さんとそういう関係であり続けられるよう、努力したいと思います。それから、児童養護施設の子どもたちに、船員になる道を開きたい。施設で育った子どもたちの卒所後の自立が難しいという記事を新聞で読んだ私は、船員という職業があることをぜひ知ってもらいたいと思い、施設への広報活動をはじめました。乗船中は衣食住の心配が要りませんし、収入も安定しています。一方で、内航海運業は船員不足に頭を悩ませています。子どもたちの海員学校への進学や就職を、業界として支援する仕組みがつくれたら最高です。

白石海運株式会社

大阪府大阪市港区磯路3-11-7 TEL:06-6571-0874

http://shiraishikaiun.com/

<関連記事>インタビュー:内航海運の魅力(PDF)※運輸と経済 第77巻 第5号より抜粋

【所有船舶】

第八大島丸[タンカー]

竣工2002年2月 / 総トン数199t / 全長43.95m / 全幅8m / 主機馬力850ps / 速力11.5ノット

大島丸[タンカー]

竣工2016年12月 / 総トン数499t / 全長64.99m / 全幅10.4m / 主機馬力1,000ps / 速力12.0ノット

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